'12/6/5 (Tue)
カオルはもぐもぐとおにぎりをほおばりながら歩いてきた。
JR新宿駅東南口改札の手前、湘南新宿ラインのホームに降りる階段の脇で僕は待っていた。
「食べる?」
「食べない。」
僕は朝食を食べない健康法をやっている。
とはいえ、今は11時、朝食という時間でもないのだが、またしてもカオルは聞いてくる。
「食べる?」
「いや、いらない。」
聞こえたのかどうか僕の返事を完全に無視したかのように、僕の口の前に角の1つ欠けたおにぎりを突き出してくる。
仕方がないので僕は残された角の1つにかぶりつく。
新宿から鎌倉まで湘南新宿ラインで1時間足らずで着く。
北鎌倉駅で降りて、鶴岡八幡宮を目指す。
前日の天気予報がいいほうに外れ、雲を突き抜けてくる日差しがやさしく温める。
鶴岡八幡で僕はお参りをしたが、カオルはしない。
宗教の違いもあるが、今は無神論者なのだそうだ。
ここから大仏まではなかなかの距離であるが、途中うどん屋で腹を満たし食後の運動がてらに歩いて行くのがちょうどいい。
見上げれば全体的な薄曇りから青と白のコントラストに変わり、初夏の日射しが肌を焦がす。
長谷寺の紫陽花は満開まではもう少しといったところだった。
寺の洞窟を歩いていると子供の頃の秘密基地を思い出して楽しくなった。
念願の江ノ電に乗って長谷駅から江ノ島駅までガタンゴトンガタンゴトンと乗り心地を味わった。
最後にもうひと歩きである。
そろそろ根を上げるかもと思ったが、いやいや意外やカオルには体力がある。
僕は高いところが好きである。
展望台から横浜ランドマークタワーが見えた。
筑波山も見えた。
東京スカイツリーを探したが見えないのか識別できないのか、結局分からずじまいに終わった。
江の島のネコは人慣れしてるのか大人しいのかマイペースなのか、とにかく置き物のようだった。
日もどっぷりと暮れた。
R134沿いのカプリチョーザでサラダとパスタとピザを赤ワインで流し込んだ。
食後のコーヒーがサービスで出てきた。
お店の気遣いが嬉しい。
片瀬江ノ島駅から小田急線に乗って新宿を目指す。
藤沢駅で急行に乗り換えて1時間かそこいらだったかあっという間に新宿に着いた。
その間カオルはしゃべり続ける。
中吊り広告にはサーティーワンアイスクリーム。
「何が好き?」と聞かれ、
「ラムレーズン」と答える。
朝のおにぎりのようにはいかず、僕の口の前にはアイスクリームは出てこない。